幸せを掴む天使と迷い子
「なーなー、俺いっつも思うんだけどさぁ…、」
部活中、場地先輩が撥で綺麗に包まれた箱を回しながら話す。
「何でバレンタインの日だけ菓子の持ち込み許可すんのかなぁ?
普通の学校だったら怒られるぞ?」
交響高校にだけ存在するお菓子の持ち込み許可デー。
この日だけはバレンタイン関係ならお菓子を持ち込んでも起こられない不思議な日。
場地先輩の問いに、珍しく部長の音北先輩が答えた。
「伸博、この学校が普通の学校に見えるか…?」
「全然;;」
誰もが苦笑するこの問い…;;
交響高校は表向きは普通の高校。でも、本当は楽器を武器にして戦う不思議な高校。
…そして…、その…、同性愛もOKだったりします…;;
持ち込みOKになったのも…、そういう方が多いからなのでしょうか…。
…僕もその1人になりますが…。
「あぁ…、今日はバレンタインだったのか…。」
そう呟いたのは僕の尊敬する大好きな氷上先輩…。
…僕は氷上先輩に片思いしている…。
氷上先輩が好きなのは校内で知らない人は居ない程有名な指揮先生…。
でも、その有名な理由は良い意味ではない。
…どう言えば…ええっと…、場地先輩で言うと…変体教師…でしょうか…。
なのにあの人は指揮先生の背中を追っている…。
…勝てないのかな…。
「光…?どうかしたのか?」
氷上先輩が目の前で手をヒラヒラしている。僕ははっと我に返った。
「…いえ、何でもないですよ…。」
掠れた声で答え、僕は微笑んだ。
「…今日の練習はここまでにしておこう。
今日は…その…、用事の入ってる奴がほとんどだからな…。」
音北先輩が少し顔を赤らめて言った。
…そういえば…、音北先輩も黒宇先輩と良い関係でしたね…。
「…じゃあ、解散。」
皆礼をして解散をした。
「光…、ちょっと良いか?」
氷上先輩が楽譜を鞄になおそうとした僕に話しかけた。
「…何でしょう…?」
「…その…、バレンタインのチョコを…選ぶのに付き合って欲しいんだが…。」
僕は頷いた。相手が分かってるから少し悲しいけど…。
「オススメのお菓子のお店がありますよ」と言って僕は氷上先輩と学校を後にした。
「「……;;」」
僕と先輩は絶句した…。
やっぱり世の中バレンタインの日にお菓子屋さんで騒ぐのは女の子がほとんどで…、
男の子も居たけれどそれは交響高校の生徒がほとんどだった…。
「…やっぱり入りづらいな…;;」
「…で、でもっ…!お菓子はここが1番美味しいですから…;;」
僕はあれこれ説得して氷上先輩とお店の中へ入っていった。
「おやまぁ、ひー君いらっしゃい♪」
声をかけてくれたのは近所に住んでる店員のお兄さん。
名前は…えーっと……、『栗矢 恵貴(くりや けいき)』さん…だった筈…。
ここの人気の理由は美味しさだけで無く、栗矢さんのカッコ良さもあるんだよね…。
「隣の子は彼氏かい?」
ニヤニヤしながら栗矢さんは聞く。
「…ち、違いますよ…!!バンドの先輩です…!!」
僕は顔を真っ赤にして否定した。氷上先輩も顔を赤くして首を振る。
「なんだぁ…、残念。そん時はサービスしようと思ったのに…。」
栗矢さんは苦笑した。そして「でもね」と言って僕の耳元で、
「ひー君はお客のアイドルだから、そんな簡単に出来ちゃ駄目だけどねv」
と囁いた。
「…なっ…!!…だったら今日ここに来ませんよっ…!!」
僕が怒っても栗矢さんは「ひー君は可愛いな〜v」と笑うだけ。
その時、氷上先輩が口を開いた。
「…バレンタインのチョコを一緒に買いに来たんだ…。
どんな物があるか見せて貰いたいんだが…。」
と少し低い声で…。…氷上先輩が…怒ってる…?
栗矢さんは氷上先輩を見つめ、ニヤリと笑った。
「はいよ。入り口付近にあるのがチョコだよ。表にも置いてるから見ておいで。」
氷上先輩は僕の手を引いて表のほうへ行った。
「ありゃ嫉妬ってヤツだな♪」
と恵貴さんの声が聞こえたような気がした…。
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