セピアドール

 

小さな部品をひとつひとつ組み合わせて命を与えた人形『ドール』は、

いつも依頼人と共に僕の店にやって来る。

そして…、僕『セピア・フォト』が本当の命を与えるんだ…。

 

ここは人形の街『セルロイド』。

人形の街と言われるのには理由がある。

僕のようなドールに本当の命を与える、『人魂師(ひとだまし)』が多い街だからだ。

人魂師は、依頼人の要望に合わせてドールに命を与える。

感情を入れてやる仕事がメイン。報酬は結構入ってくる。

でも、そんなにいい仕事とも言えない。

僕の向かいのライバル店『始末亭』は、暗殺ドール専門の店だから…。

ドールがドールに殺されるのも珍しいことじゃないし、

暗殺ドールが人を殺すのも最近増えてきた。

その為、僕の店『至福屋』には最近兵士系ドール育成の依頼が多い。

…でも、僕は断ってるけどね…。

暗殺ドールの主な特徴は、

・     指にワイヤー、または弾丸が入っている。

・     夜でも平気。

・     結構頑丈で素早い。

の3つ。これに警察は悩まされている。

始末屋の人魂師は『グレー・ブラッド』という僕より1,2歳上の人。

実力は僕より少し上。

だから、今の僕のドールではグレーの暗殺ドールに勝てない。

だから僕は貴族のドールを中心に命を与える事にした。

のんびりと育てていきたいからね…。

それに…、僕は戦いたくない…。

ドールが傷つくのも傷つけるのも見たくない…。

 

「…相変わらずボロいな…。」

グレーが僕の店に入ってくるなりそう言った。

僕は少しムッとした。

お爺ちゃんの代からずっと変わらず続いてるこの店を悪く言うのは腹が立つ。

僕は少し声のトーンを落として話しかけた。

「何の用?部品が欲しいの?」

「…それもあるが…、ちょっと偵察だ…。ライバル店を見るのは別に悪い事じゃ無い…。

…相手の売れ行き、ドールの様子、店内の雰囲気を調べるのは大切だと思うが…?」

当然の事とでも言いたそうな目で見てくる。

「まだ暗殺ドール作ってるんだ…。」

「…それで金を得ているからな…。」

出来れば暗殺ドールなんか作って欲しくない。

これ以上ドールが殺されるのは辛いから…。

「…もし止めろと言うのなら…、俺の作った暗殺ドールを正気に戻してみな…。

…もっと簡単に言えば…、瞳に光の宿って無いドールの瞳に光を与えろって事だ…。

…言っておくが、そんなに容易な事じゃないぞ…?

…真っ黒な墨に染まった白いTシャツを元に戻すのと同じぐらいな…。」

グレーは部品を受け取って、

「…出来るものなら俺の店に来い…。いつでも待ってるぞ…。」

と言うと、始末亭へ帰って行った。

 

……どうすれば……?

グレーには始末屋を止めてもらいたい…。

でも、止めさせるには暗殺ドールを正気に戻さなければいけない…。

…つまりそれは命がけ…。

自分が殺される可能性だってあるんだから…。

グレーが帰った後、僕はカウンターで必死に考えていた。

『…マスター…、無茶だけはしないでくださいね…。

私は貴方様に従う身ですから偉そうな事はあまり言えませんが…、

私はマスターが心配なのです…。』

僕のパートナードールの『檸檬』が僕にそっと声を掛けた。

「…檸檬…、どうすればいいんだろう…?」

檸檬はすっと目を閉じ、

『私はマスターにそんな賭けをして欲しくない…。

マスターが命を落とすのなら…、私が廃材の仲間入りになった方が良い…。』

と答えた。僕は少し考えてから口を開いた。

「…僕、賭けてみる…。」

『え…?』

「賭けに乗らなかったら犠牲になる人が増える一方なんだよ?

僕がこの賭けに乗って成功すれば、きっと犠牲になる人が減る…。

暗殺用ドールも減るしね…。」

檸檬は黙って俯いている。

僕は檸檬に軽く微笑んでカウンターを離れ、ドアに手を伸ばした。

「檸檬、ちょっと行って来るから留守番お願いね。」

僕は目の前の始末亭へ足を運んだ。

 

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