2階の工房へ真倉はなんとか運ばれ、僕は工房で改めて真倉を見た。
色黒の肌に黒服に黒髪。
暗殺用ドールは暗闇に溶け込む為に服も髪も肌も黒く作られている。
…にしても…、綺麗だなぁ…。
「じゃあ、俺は店に戻るぞ。」
グレーはそれだけ言って至福屋から出て行った。
「…じゃあ、充電して電源入れようか。」
『そうですね…。』
僕は檸檬と一緒に真倉を充電器に乗せた。
電気がドールの中に溜まっていき、熱を帯びてきた。
「檸檬、ちょっと時間が早いけどお店閉めてきて。」
『分かりました。』
僕は真倉の体にエネルギー源の電気が溜まるのをずっと見ていた。
今は悪そうには見えない真倉。
目を覚ましたら一体どんな事をするのだろう…?
僕は怖い半分楽しみ半分でその時を待った。
メーターはもうすぐ満タンになる。
『マスター、どうですか?』
「もうそろそろ充電も終わるし、電源を入れようか。」
『そうですね。』
僕は首の後に付いている電源のスイッチを入れた。
機械音が鳴り出す。きっとデータを読み込んでいるのだろう。
長い間眠っていた真倉は目覚めるまでに時間がかかった。
真倉は檸檬よりはバージョンが新しいけれど最新版よりは古い。
何かトラブルがあっても真倉のバージョンならギリギリ直せそうだ。
ギギッと音がして機械音が静まった。
読み込みが終わったのだ。
真倉の瞼がゆっくりと開いていく。
銀色の目がギラリと光った。
『…誰…だ…。』
少し低い声で真倉は尋ねた。
「僕はセピア。今日から君のマスターになったんだよ。」
『…マス…ター…?』
真倉は飛び起きた。
『お前は我輩の主人では無い!』
そう叫ぶと真倉は立ち上がり、僕達に向かってワイヤーを飛ばした。
僕はやられるのを覚悟した。
でも、その後聞こえた金属音に僕は目を見開いた。
『マスター、大丈夫ですか…!?』
心配そうに僕を見つめる檸檬。
その檸檬の左目が無くなっていた。
真倉のワイヤーが檸檬の左目を破壊したのだ。
「檸檬!左目が…!!」
『あぁ…、心配しないでください…。もう左目は見えなくなっていたんですから…。』
僕はとても苦しかった…。
柔らかい笑みを僕に向ける檸檬の姿はとても痛々しくて…。
僕はまだ殺気立ってる真倉の前で、優しく微笑む檸檬の前で、
僕は声をあげて泣いた。
「…もう休んで良いって言ったじゃない…!!
僕は檸檬とずっと一緒に居たいから言ってたのに…、
…なのに…どうしてそんな事…っく…ぇうっ…!」
檸檬は困った顔をして僕を見つめる。
真倉も黙ってその様子を見ていた。
「…真倉も真倉だよ…!!何で起きて早々そんな事なんかするの…?!
目なんて攻撃したら痛い事くらい分かってるでしょ…?!」
檸檬が泣き崩れる僕を抱きしめた。
『…ゴメンなさいマスター…。
マスターの為と思っていた事は…、逆にマスターを不安にさせていたのですね…。』
僕の涙を檸檬はそっと拭いてくれた。
お母さんがやってくれたように優しく…。
僕は涙を袖で拭き、檸檬を見上げて、
「檸檬、グレーの所で直してもらっておいで。」
と言った。檸檬は頷いた。
『もう…マスターに不安な思いはさせません…。』
檸檬は少しふらつきながら始末亭へ出掛けていった。
工房は僕と真倉の2人きりになった。
真倉は僕を見つめたまま黙っている。
「…どうしたの?僕は主人でないから消すんじゃないの?」
真倉は、
『…気が引けただけだ…。』
と吐き捨てるように言った。僕は苦笑した。
「檸檬が戻って来たら店の中を案内してもらうから場所を覚えてね。
あと、君を作ったグレーは目の前の店にいるから。
好きな時に出掛けて良いけど、騒ぎを起こすような事は止めてね。」
真倉は『はい』とも『いいえ』とも答えなかった。
僕は苦笑して工房の棚の整理をした。
真倉はまだ僕達に慣れてないから仕方ない。
どんなドールでも最初は人を警戒する。
慣れてくれる日を今は待つしか無い…。
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