部長と夕空

 

「―…では、これにて解散!」

大公(オオキミ)部長の声がケージに響き渡り、部活がようやく終わった。

俺『時生歩澄(トキオ ホズミ)』が通う大舞台(オオマイダイイ)高等学校が力を入れている球技『ケージボール』は、

特殊なケージの中で行われる球技だ。

ケージの隅などに配置されたゴールにボールを入れれば点が入り、25点1セット、3セット先取で勝ち。

俺はその才能があるらしく、監督に誘われるがまま、中1にも関わらず飛び級でこの高校へ入った。

「時生、着替えたら残っていろ。」

「分かってますよ。」

部長は口調は厳しめだけど、部活外では面倒見の良い先輩だ。

…実は、実家が大舞台から遠いから部長の家に居候してたりする。

部長の両親は俺を息子のように接してくれるから、俺は益々部活も勉強も頑張ろうと思ってる。

着替を済ませた俺は他の先輩が帰るのを待っていた。

「時生、これから勉強か?」

副部長の飛鳥河(アスカガワ)先輩が声を掛けてきた。

「頭が良いワケでもないのに飛び級したワケですしね。何とかしてついていかなきゃ…。」

飛鳥河先輩は苦笑した。

「…だが、無理は禁物だぞ。もしも大変なら、俺や部長や監督にでも相談するんだぞ?」

「ハイ。ありがとうございます。」

飛鳥河先輩が去り、部室は俺と部長の二人だけとなった。

「…今日は理科だったな。」

「うん。よろしくお願いします。」

放課後、勉強がやや遅れがちな俺を心配して、部長は部活が終わってから部室で勉強を教えてくれるようになった。

家でやらないのは、団欒を部長一家が大事にしているからだ。

「―…BTB溶液の色は覚えているか?」

「青がアルカリ性、黄が酸性、緑が中性だったよね。」

「そうだ。なら、太陽が地球の周りを回っている…という説は何説だ?」

「え?!分かんないし…;;」

俺は慌てて教科書を捲った。

「………あ、天動説か!」

「そうだ。しっかり覚えておくんだぞ。」

部室の窓からややキツい夕日の光が差してきた。

「…今日はここまでにするか。時生、忘れ物の無いようにな。」

「あ、ハイ。」

俺は教科書やノートを鞄に放り込んで部室を出た。

 

橙のフィルムを張ったような秋空の陽が、俺も部長も校舎も橙一色に染めた。

「帰るぞ。…歩澄。」

家の中での呼び方で呼ばれて少し驚いたけど、軽く笑って歩きだした部長の背中を追った。

 

END

 

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