東西コンビは天才

 

桜が散り始めた頃から、『字原(アザハラ)学園』では二人の天才の事で話が持ちきりだった。

一人は活発な誰とでもすぐに仲良くなる東の天才『東暮幸(ひがし くれさち)』。

もう一人はひたすら無口で人を寄せ付けない空気を放つ西の天才『西風太郎(にしかぜ たろう)』。

生徒達は二人を『東西コンビ』と陰で呼んでいる。

が、決して東の方出身だとか西の方出身という訳ではない。

二人は入学試験を同率トップで合格した事からすっかり有名人となってしまった。

そんな二人には共通点があった。

それは自分の名前に対する思いだ。

東は『暮幸』という読みにくく呼ばれにくいこの名前が好きではない。

そして西風は『太郎』というベタな名前を呼ばれるのが好きではない。

この共通点から二人は仲良くなり、会話を交すようになった。

が、その会話は少し特殊だ。

「なぁ、西風は明日の部活見学行くか?」

この質問に西風は口をパクパクと開閉する事で答えた。それに対して東は頷き、

「そっか。じゃあ俺も美術部見に行くよ。」

と返した。

何故会話が成立するのか?それは東の特技の読唇術で西風の言葉を読み取っているからだ。

 

この調子で、東西コンビの緩やかな時が流れていくのだった。

 

ある日の昼休み、西風はいつものように東と昼食をとっていた。

西風にとって、東はこの学園内でたった一人の友達だ。

『東。』

口パクで東を呼ぶ。

「ん?どした?」

西風は何やらモゴモゴと言おうとしているが、東にはうまく伝わっていない。

「もっとハッキリ言ってくれないと分かんないだろ?」

困り顔の東に更に困り顔になった西風は観念して先程よりしっかりした口調で何か話した。

『…東なら…名前で呼んでくれてもいい…。』

「えっ…!?」

思わず東の声が引っくり返った。西風はパクパクと言葉を続けた。

『…東は信頼出来る友達だと思うから、友達なら、名前で呼ばれても悪い気がしないから…。』

西風の精一杯の口パクに東はフッと微笑んだ。

「じゃ、俺も下の名前で呼んでもいい事にしようかな。」

ややうつ向き気味の西風の頭を撫でると、更に西風はうつ向いてしまった。

「これからも友達でいような、太郎。」

自分から了承したものの、慣れない呼ばれ方に西風は顔を赤くして、益々顔を上げれなくなってしまった。

ただ、小さく小さく「暮幸…。」と名を呼んだ。

 

END

 

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