東西コンビと不安な夜
二人で一人用ベッドに狭そうに寄り添う。
…初めて太郎と一緒に寝るんだなぁ…。
が、太郎の目はギンギンに覚めているようだった。
無理もないだろうな…。
太郎に電話するように言って、電話かけさせてから何も喋らない。
太郎の親父さん、かなり怒ってたんだな…。
『お父さん!俺には暮幸っていう好きな奴がいるんです!!』
…あれは嬉しかったなぁ…。かなり。
でも、父親に敬語って事は、太郎も恐れる存在に違いない。
俺は太郎に問いかけた。
「親父さん、何て言ってた?」
太郎は言いたくないのか、布団を頭から被った。
その反応が可愛くて、俺は布団ごと太郎を抱き締めた。
太郎の圧力が胸にかかる。
「不安なのは分かるけど、寝ないと体に悪いぞ?」
モゾモゾと顔を覗かせた太郎はまつげを少し濡らしていた。
「…俺達を絶対に引き離す…って言ってた…。」
呟くように答えた太郎の言葉は、酷く重たく聞こえた。
「そっか…。」
鼻をすする音が聞こえる。
言われた時の太郎の気持ちが痛いぐらい伝わった。
俺だって引き離されるなんて嫌だ。
出来ることなら俺の実家に保護したい。
…けど、学校から遠いんだよなぁ…;;
太郎は俺に一つ要求した。
「…引き離される前にキスしたい…。」
いつになく真剣な目で訴えかけてきた為、俺は少し焦った。
「引き離される前にって…、ちゃんと断れば…」
「親父の言葉は絶対だから…。力ずくでも引き離しに来る…。」
溢れそうな涙で太郎の目の光が揺れていた。
「…親父が来たら…俺は帰るつもり…。もう抵抗する気力もなくなったから…。だから暮幸…、キスしたい…。」
確かに、このままではファーストキスを婚約者に奪われてしまうかもしれない…。
そんな危機感が俺の脳裏を横切った。
「…ホントにいいんだね?」
太郎は大きく頷いて答えた。
俺も頷いて、太郎に顔を近付けた。
「目ェ閉じて…。」
恐る恐る太郎が目を閉じたのを確認して、俺は唇を重ねた。
太郎の鼓動が近い。
そして早い。
太郎は目尻から一筋線を作った。
まるで永遠の別れみたいな、そんな切ないキス。
俺も、抱き締める腕に力がこもった。
「もう大丈夫?」
「ん…。」
時計はもう夜中の1時を指していた。
「じゃあ、もう寝ようか。」
太郎は俺の寝間着をキュッと握る。
「おやすみ…。」
「うん。おやすみ…。」
朝が来なければいいのに…。
そう思った。
END
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