部長はNo.2
バシイィィン!!
体育館裏からいつもの音が聞こえる。
そこには一人黙々とボールを壁に投げつける来居が居た。
「来居(クルイ)。」
来居は手を休め、俺の方へ向き直った。
「…何スか、部長。」
「あと30分したらケージの中に集合だ。」
「…分かったッス。」
後ろで束ねたやや桃色がかった銀髪が揺れた。
息が上がっているのか、肩が小さく上下している。
「練習相手になるが?」
来居は首をフルフルと横に振った。
「…いいッス。後で鈴助が来ますから。」
「そうか…。」
「…俺は皆と練習出来ないんスよ。」
来居は精神が不安定な為、安定が崩れると手がつけられない程暴れる。
それを唯一止められるのが飛鳥河だ。
黙る来居に俺は優しく話しかけた。
「だが、試合当日は上手く俺達と合わせてるじゃないか。なかなか出来る事じゃない。」
「でも…。」
と来居はうつ向いた。
「来居、お前の能力は俺より上だ。判断力も、動体視力も、スピードもだ。
その力が全国を目指す上で不可欠だ。どのメンバーも欠けてはならないんだ。…分かるな?」
来居は頷いた。ボールを持つ細い指に力が入るのが分かった。
「来居!」
副部長の飛鳥河がこちらへ駆け寄って来る。
「あ、部長も居たんですか。」
「あぁ。今から練習だな?集合に遅れるなよ。」
「はい。」
俺は後を飛鳥河に任せ、立ち去る事にした。
飛鳥河は入部してから今まで来居をサポートしてきた。
アイツに任せれば大丈夫だろう。
「…さ、来居、パスの練習をしようか。」
「…あぁ。」
来居の練習で最も不足しているのは仲間との息を合わせる事。
その手助けになればと思ってるが…、必要無いようにも思える。
来居はちゃんと指示すればその方向へボールを飛ばすし、パスもしっかり繋ぐ。
汗を先に流したのは俺の方だった。
「…鈴助、大丈夫か?」
「…大丈夫だ。」
ストップウォッチは集合時間の5分前を示している。
…そろそろ向かわなくては…。
「来居、そろそろ時間になる。」
タオルで汗を拭い、声をかけた。
「分かった。…ありがとう。」
見上げた空が赤い。
来居の銀髪も光を浴びて金に染まっていた。
「今の来居なら大丈夫だ。精神面は俺が支える。安心するんだ。」
「…分かってる。」
来居は今、思い切ったプレイが出来ないでいる。
俺が支える事でそれを取り戻せるなら…、ずっと来居についていく…。
END
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