雨降りオセロ
空に久しぶりに雨が降った。
雨が降ると俺の仕事である黒羽の保護は中止となる。
羽が雨水を吸って飛べなくなるからだ。
俺は墨と共に久々の休みを満喫していた。
今日のティータイムは墨と二人きり。
漆黒が『作りすぎたから…』と持って来たプレーンのエークに、
俺はクリームチーズとブルーベリージャム、墨はコーヒークリームと生クリームを挟んで頂く。
「ホンマ、漆黒は上手にエーク作るなぁ。」
「そうだな。」
エークに関してはプロ並の腕を持つ漆黒は、きっと今頃純白と甘いティータイムを過ごしているんだろう。
普段、純白が仕事で漆黒は随分と寂しい思いをしているから…。
「……やな。」
「…は?」
突然墨が話出した為、俺は何を言ったのか聞き逃した。
「久々やなって言ったんよ。こうやって二人きりでゆっくりすんの。」
「そういえば…そうだな…。」
俺は主に外の仕事、墨は主に基地内での仕事。
恋仲だというのにいつも離れ離れだった。
「何か同じ組織におるのに、遠距離恋愛してるみたいでな、ずっと白群に会いたかってん。」
聖水にコーヒーシュガーを落とし、クルクルとスプーンで掻き混ぜながら優しい声で語る墨に、俺の体は熱を上げた。
「愛しとるで。白群…。」
墨は…平気で甘い言葉を囁く。
俺は恥ずかしくて言えないが、まるで俺の分も言ってくれてるのかと思うほどに何度も言う。
「…何でそんなに『好きだ』って言えるんだ?」
墨は目を丸くしたが、すぐに甘ったるい目に戻った。
「今度、いつこうやってお茶出来るか分からんから、今の内に沢山『好きや』って言いたいねん。」
墨は窓を見つめて苦笑した。
外はまだ雨が止む気配は無い。
「…ずっととは言わんから…、もう数日雨降っとって欲しいなぁ…。そしたら、もっともっと『好きや』って言えんのに…。」
雨音が強くなった。
「…だったら…、」
「ん?」
「だったら、俺も『好き』って言ってやる。」
ずっと言ってこなかった言葉。
恥ずかしくて言いたくなかった言葉を…。
「俺が今まで埋めてもらってた分の俺の『好き』を言ってやる。」
墨は驚いていたが、また優しい顔で微笑んだ。
俺は墨の隣に回り、固く目を閉じて耳元で小さく囁いた。
「…墨が…この世にいる誰よりも大好きだ…。」
目を開けようとした時、唇に柔らかい物が触れた。
それが何かすぐに分かり、俺はそれを受け入れた。
…雨はまだ降っている…。
END
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