俺が手放してしまった2つの白い風船

 

‐あなたに逢えて良かった…そう今でも俺は思います…‐

 

「…タンゴ…。」

俺は優しく微笑むその人の手を握る。

その人もそっと握り返してくれる。

「司さん…、私の事は聞きましたか…?」

「あぁ…。あと5ヶ月前後だそうだな…。」

陶器で出来たような白く、すぐに壊れてしまいそうな肌。

病室の白とよく合う空色の瞳。

それもあと5ヶ月前後で見る事は無くなってしまう。

「…私ね…、今日は沢山司さんに話したいの…。」

その人の一言一言が俺の胸を締め付ける…。

「もう…、司さんとは2度と逢えなくなってしまうから…。」

お互い辛い気持ちなのにその人は穏やかな口調で俺に語る。

「私ね…、司さんと一緒になれて幸せだったのよ…。

だって…、司さんは私にネットという優しい子をくれたもの…。

司さんに良く似て…、優しくて…綺麗な…。」

その人は写真立てを手にした。

枠の中には俺とタンゴとネットが写っている。

特にタンゴの笑顔は眩しかった。

「これを見て、またお弁当持ってお出かけしたいな…って思ってね…、

…頑張ったんだけど…、それももう無理になっちゃったわね…。」

その人は本当に残念そうに言う。

5ヶ月後にはあの皆で歩いた草原も…、あの時見た空も…、花も…、

俺の顔も…、ネットの笑顔も…、見れなくなってしまう…。

そして…、俺はその人の笑顔を見れなくなってしまう…。

「司さんも…、ネットも…、皆愛していたわ…。誰よりも…。

だって…、2人は私をとても大事に思ってくれたもの…。」

何度も呪文のように愛の言葉を口にする。

俺の感情は熱くなり、涙として零れ落ちた。

その人は苦笑してハンカチで俺の涙を拭い取る。

「…司さん…、先に泣くなんてズルイわ…。

私だって泣きたいのに…。辛いのはお互い同じなのにズルイわ…。」

それでも俺は感情を抑えられず、その人の前で嗚咽を漏らして泣いた。

「…司さんが先に泣いたから…、私も泣いて良いわよね…?」

その人の涙はとても綺麗で…、何か瓶に閉じ込めておきたかった。

「私が生まれ変わったら…、司さんは…また…私を選んでくれるかしら…?」

「あぁ…。必ず…お前を選ぶ…。」

俺はその人と最後の口付けを交わした。

遥か遠い未来に誓った婚約…。

それから面会時間終了まで俺とその人は語り合った。

 

それから5ヵ月後、あの人は永遠の眠りについた…。

最愛のあの人を亡くしてしまった…。

それだけならまだ良かった…。

ネットの笑顔も失くしてしまった…。

ネットが出て行き、俺はベッドであの人との約束を思い出す。

 

‐私が生まれ変わったら…、司さんは…また…私を選んでくれるかしら…?-

 

「…選んでやるから…帰って来てくれよ…タンゴ…!!」

あの人の存在が大きかった事を思い知らされた。

泣きながら交わしたあの約束…。

永遠に果たされる事のない約束…。

気休め程度にしかならない約束…。

俺はその約束でベッドに縛り付けられた。

 

時が流れ、俺の家にネットが戻って来た。

週に3日間だけだが、少しずつあの時の時間を取り戻してきている。

「ネット、明日は弁当持ってどこか行こうか。」

「…何だよいきなり…。気色悪いな…。」

「タンゴと最後に出掛けたあの公園に行こうと思ってるんだけどな〜。」

「…父さん…。」

「……行くか…?」

「…行く…。」

 

少し暖かくなってきた3月。

急に気温が下がって雪が降った。

あの時のあの人の涙のように綺麗で…、

寒いのにテラスでネットとその雪を見つめていた。

 

あなたに逢えて良かった…

そう今でも俺は思います…

だから…

生まれ変わったら約束通り…

 

-俺はまた…あなたを選びましょう…-

 

E N D

 

 

*後書き*

…悲しい…。

とある切ないMIDIを聴きながら、そして泣きながら書いてました…;;

家の人が居る側で…;;

指揮先生の嫁さんのタンゴさん、やっと登場しましたね。

切ないMIDIを聴きながら読んでみてください。

そして、指揮先生ファンの方は惚れ直してやってください。

そして、泣いてやってください。

うぅ…、久々に泣いたので頭痛いです…;;

 

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