時に塩っ辛く、時に甘ったるく(前編)

 

何度も話の中で繰り返し言ってる事だが、俺の父さんは交響高校で有名な変態教師。

…それは分かってるんだ…。

分かってるんだけど……。

「伸博〜Vv」

「だーっ!!この子持ち教師!!ベタベタすんな!!」

…最近伸博と父さんを天秤にかけると、父さんの方が重いような気がしてくる…。

確かに伸博の事は好きだ。

けど…、伸博はきっと父さんの事が好きで…、父さんも伸博が好きで…、

大勢の教師生徒を敵に回しといて、余裕からか他の生徒にも手を出したりしてて…、

…何かその隙間にも入れない自分がとても悲しい…。

 

「…俺…、何であんな親父好きになったんだろう…。」

「…その親父の弟の前でノロケか…?」

化学準備室。

最初怖かったシャーレは餌付けして飼いならした。

今まで押さえ込んでいた気持ちを制御出来なくなった俺は、譜面に恋愛(人生?)相談なんぞをふっかける事にした。

「ノロケなんかじゃない。父さんと距離が遠くて寂しいんだよ。」

 

『寂しい』

 

そんな言葉親しい奴の中でも特に親しい奴にしか言わない。

譜面に言えるのは…同類…だからだろうか…。

「…まったく…。…相談される俺の身にもなれ…。」

「アンタにはシャーレがいるじゃないか。」

「…いつまでもネコにヤられて悦んでる俺じゃない…;;」

「…お互い大変だな…。」

「…まったくだ…。」

2人ソファーで縮こまって苦笑してコーヒーを飲んだ。

苦いコーヒーが辛い事全部、口の中から無くなる時に消えてしまえば良いのに…。

「…俺って…やっぱり息子でしかないのか…?」

「…?」

苦いコーヒーは逆に辛い事を思い出させる…。

辛い事はいくつになっても嫌だし怖いし抜け出したい…。

「…何か変だよな…。

伸博の幸せは誰よりも願ってる筈なのに…、相手が父さんだからさ…、嫉妬…しちゃうんだ…。

頭の中では理解できてる事が…、心の中では理解できてなくて…、辛いんだよ…。」

泣きたくなる…。

譜面は黙っていたが、ゆっくり口を開いた。

「…理解するばかりでなくて…、される事も大事じゃないのか…?」

「…理解される…?」

譜面は頷く。

「…俺も…兄さんが好きでどうしようもなかった時があった…。

…その時は必死に理解しようと自分の頭を殴ってばかりだった…。

…お前にやった酷い事は…、心が理解できなくて暴走してしまったんだろうな…。」

母さんが居ない間、そして1人になる間に譜面にされた酷い事…。

今はそれも無い。互いを見て、分かり合ったから。

「…お前にもその時期が来たんだろう…。」

俺はコーヒーを口にしながら黙っていた。

 

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