「…来たか。覚悟が出来たんだな?」
僕は頷いた。
「…で、僕が光を与えるドールはどれ?」
「今出す。そこで待ってろ。」
グレーは倉庫の奥へ入っていった。
その間僕は店の中を見回した。
黒いドールが僕を囲むように並んでいる。
まだ電源を入れてないドールだから大人しいけれど、
電源を入れたらきっと僕を襲ってくるだろう。
ショーケースには改造用の武器が並んでいる。
これで人やドールを傷つけるんだと思うとゾッとした。
見てる間にグレーがやっと倉庫から戻ってきた。
大きな木箱をカウンターに乗せる。
「…待たせたな。これがお前に任せるドールだ。」
木箱を開けると綺麗な顔のドールが眠っていた。
「俺が昔作ったドールだ。名前は『真倉(まくら)』。
俺が今まで作ってきた中で1番強く、凶暴なドールだ。
これをお前が扱っているようなドールに戻せたら、俺はこの仕事を止めても構わない。」
止める事をどうも思っていないのだろうか?グレーは淡々と話を進める。
でも、僕はこの仕事を止めて欲しいからやってるんじゃない。
本当は…僕は…、
「セピア、聞いてるのか?」
僕は我に返った。
「あ…、ゴメン。ボーっとしてた;;」
「本当に覚悟は出来てるんだな?って聞いてるんだよ。」
「あ、うん。覚悟は出来てるよ。」
僕は苦笑して答えた。
「なら、店に運んでやるから表に出ろ。」
グレーは木箱を背負った。
「え?僕も手伝うよ。」
「お前力あんまり無いだろ?」
グレーに言い返された時にはもう至福屋に着いていた。
「檸檬、居るか?」
檸檬の姿はカウンターに無い。
すると、1階の奥から小さな破裂音が聞こえた。
「?!檸檬?!」
「…何やってんだあのドール…。」
奥へ行くとキッチンにエプロン姿の檸檬が立っていた。
アルミホイルで蓋をしたフライパンを片手に持ち、楽しそうに鼻歌を歌っていた。
破裂音はフライパンの中から聞こえてくる。
「れ…、檸檬…?」
僕とグレーに気付いた檸檬は微笑んだ。
『あ、マスターにグレーさん。もうすぐポップコーンが出来るんですよ。
3時のおやつに良いかと思ったんですけど…。』
ポップコーン…。僕とグレーはズッコケた。
「ビックリした〜;;檸檬は休んでいて良いんだよ?」
檸檬はお父さんに命を吹き込んでもらってから13年間、
僕のお守り係として僕の側にずっと居た。
お父さんとお母さんが暗殺ドールによって殺された後も、
檸檬はずっと僕の世話をしてくれた。
でも、最近のメンテナンスで檸檬の視力が落ちてきている事が分かった。
修理をすれば良い事だけど、今と昔ではドールの作りが変わってきていて、
今の僕の力では檸檬の目を直すことが出来ない。
それなのに檸檬は暗い顔をせずに僕に笑顔を見せる。
僕はそんな檸檬の姿を見ると胸腑が苦しくなった。
檸檬には出来るだけ休んで欲しいのに、檸檬は僕を思って無理をする。
檸檬のその行動を僕は止められなかった。
そして今も檸檬は無理をし続けている…。
『マスター…、私はマスターの力になりたいだけです…。
今の僕にはこうやって家事をしてマスターの生活を支えるぐらいしか出来ないのです…。』
僕はまた檸檬を止められなかった。
『あ…、それで何か話があったのでは…?』
グレーと僕はすっかり用件を忘れていた。
「ドールを連れて来た。工房へ運ぶのを手伝って欲しいんだ。」
『分かりました。ではマスター、そのポップコーンをお皿に盛っておいてください。』
グレーと檸檬はカウンターの方へ消えていった。
僕はキッチンに1人残された。
1口ポップコーンを食べてみた。
僕の好きなチーズ味になっている。
僕は檸檬を思って胸が痛んだ…。
*ブラウザの戻るで戻ってください*